570 風風がい

『風』

風がいました。



ある時は、そよ風。
みんな、気持ち良さそうです。


ある時は、冷たい風。
みんな、体を縮めます。


ある時、強い風になって、
みんなを吹き飛ばそうとしました。
その時、強い風から子供を守ろうと、
お母さんが子供を抱き締めました。


風はそれを見て、羨ましく思いました。
風は、今まで誰からも、
抱き締めてもらった事などなかったからです。


風は、そのお母さんに頼みました。
「僕の事も抱き締めて。
 僕、誰からも抱き締めてもらった事がないんだよ」。
それを聞いて、
お母さんは残念そうに答えました。
「抱き締めてあげたいけれど、
 そんなに強く吹き付けられては、
 抱いてあげられないわ」。


だから、風はそよ風になりました。
とても優しくて暖かい風です。
だけど、
お母さんは残念そうに言いました。
「動いていては、
 抱いてあげられないわ」。


だから、風は吹くのを止めました。



風はいなくなりました。