564 空蟻んこ

『空』

蟻んこが空に尋ねました。


「如何して君はそんなに色々と持ってるの?」


蟻んこがやっとの思いで抱えているのは、
ほんの一粒の砂糖です。
空は訊き返しました。


「『そんなに』って?」


「だって、君は、
 雲も雨も雪も虹も光も陰も、全てを持ってる。
 地球も君の物だ。此の僕さえも…」


淋しそうにそう言った蟻んこに、
空は笑って答えました。


「僕は何にも持っていないよ。
 敢えて言うなら、包んでいるんだ」


同じだよ、と蟻んこは言おうと思ったけれど、
其の言葉を飲み込みました。
察した空は、続けて言いました。


「何一つ持っていないから、全てを包み込めるのさ」



少し考えて、蟻んこは砂糖を地面に置きました。
仰いだ空は、蟻んこだけの物でした。