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あるところに 『せんそう』という おそろしい かいぶつが いました。


『せんそう』は おおきくなったり ちいさくなったり くろくなったり
ちかちかまぶしくなったり ひとを きずつけたり ころしたり
そして たまに うつくしく みえたりします。


『せんそう』が ちいさくなったとき
あるわかものが 『せんそう』と はなしあいをしに いくことに なりました。


『せんそう』は ちきゅうで うまれたので
ちきゅうの ことばを はなすことが できるのです。


わかものが あいにいった 『せんそう』は
おおきいとき ほどでは ないにしろ おそろしい かおを していました。


わかものが たずねました。


「あなたは 『せんそう』を やめることは できませんか。
 おおくのひとが あなたに おびえ こまっています」


『せんそう』が こたえました。


「わたしも やめたいと おもっています。 でも やめられません。
 だって わたしは うまれたときから すでに 『せんそう』だったのですから」


わかものは いいました。


「だけど あなたの おかあさんは 『せんそう』では なかったんです。
 もうすこし こわくない かいぶつ だったはずなんです」


「……」


「そのまた おかあさんは もっと…」


「……」


「いっしょに ほうほうを かんがえましょう」


わかものの ことばに 『せんそう』は うなずきました。


ながい じかん かんがえても いい ほうほうは おもいつかず
ふたりは いつしか おたがいの はなしを はじめました。


そのなかで わかものは
『せんそう』が とても おもたい にもつを かついでいることを しりました。


「そのにもつを おろしてみては どうでしょう」


『せんそう』は こたえました。


「このにもつは みえないけれど
 とても おもい だけではなく とてもとても おおきいんだ。
 これを おろせるような ひろい ばしょは ないんだよ」


『せんそう』が だれかを ころしたり なにかを こわしたりするのは
このにもつの せいなのではと わかものは おもいました。
おそろしい かおも にもつの おもたさの せいなのではと。


すこし かんがえて わかものが いいました。


「せかいじゅうの すべての ひとに
 あなたの にもつを すこしずつ もってもらいましょう」


『せんそう』は おどろいて いいました。


「みんなに もうしわけないよ。 ほんとうに おもたいんだ。
 うけとった ひとが 『せんそう』に ちかづいてしまう かもしれないよ」


「……だいじょうぶ。
 ほんとうに ちいさく ちいさくして わけましょう」


わかものは 『せんそう』の にもつを へらしてあげたかったのです。


つぎのひから せかいじゅうの くにから かかりのひとが きて
『せんそう』の にもつを もちかえり
そのくにの ひと すべてに わけました。
なんども なんども おうふくしなければ ならないくにの ひとも いました。


にもつを わたす たびに 『せんそう』の かおは やさしくなり
いつのまにか 『せんそう』は いなくなりました。


『せんそう』が いなくなって せかいは まえより へいわに なって
ひとりひとりの ひとは まえよりも すこしだけ にもつを もつことに なりました。
だけど その ちいさな にもつの ことを みんなが わすれないので
もう『せんそう』は この せかいには いません。


みんなが そのにもつの ことを わすれないから。