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母さんリスが子リスの部屋の掃除に来ました。
子リスはたいこを叩いています。

「あら、ぼうや。今日はピアノを弾かないの?」

「ピアノなんか、もう ひかないよ」
子リスは怒っているようです。

「あら、どうして弾かないの?」

「そのピアノ、おとが ならないんだ」

母さんリスは驚きました。
「ええ? いつから?」

「もう、ずっとだよ」

「ねぇ、だけど、昨日もぼうやのピアノは
 ちゃんと母さんに聴こえて来たわ」

今度は子リスが驚きました。
「きのうも きこえたの?」

「ええ、ちゃんと」

「…きのうも そのまえも?」

「ええ、そうよ」

子リスは考え込みました。
母さんリスが言いました。

「ぼうや、もう1度、弾いてみたら?」

「…もう、ひかないよ」

「でも、母さんには聴こえたのよ?」

子リスは母さんリスを見て、言いました。
「ねぇ、かあさん。
 ならないピアノを ひくのは かなしいんだよ。
 とっても とっても、かなしいんだよ」

「……」

「だけど、この たいこは おとが でるんだ。
 まわりの くうきが ふるえるんだよ」

そう言うと、子リスはまた、たいこを叩き始めて、
もう何も言いませんでした。

母さんリスももう何も言わず、掃除をし始めました。
そしていつものように最後に、
子リスのピアノを拭き始めました。

それを見て、子リスが言いました。
「かあさん、もう いいんだよ。
 ピアノは そうじしなくて いいんだよ」

母さんリスは笑って、言いました。
「でもね、ぼうや。
 母さんはぼうやのピアノが好きなのよ。
 弾かなくても、ぼうやのピアノが大切なのよ」

そう言って、またピアノを拭きました。

子リスはただ、それをじっと見つめていました。