1096 しろねこ

 しろねこが くろねこに でんわを しました。

 「もしもし、くろねこです」

 「もしもし、しろねこだよ。 ひさしぶり」

 「ああ! ひさしぶりだね」

 「いま、ちきゅうの はんたいがわに ついたよ」

 「ずいぶんと じかんが かかったんだね」

 「うん。 ひこうきでね、
  たくさんの うみと くにの うえを とんできたんだ」

 「へぇ、そんなに」

 「うん」

 「そんなに とおくに いるのに はなせるなんて ふしぎだなぁ」

 「でんわって べんりだね」

 「もし でんわが なかったら、いとでんわで はなさないと。
  どれくらい いとが いるかな」

 「…わ、わかんないよ。 ほんとうに とおかったんだ」

 「…」

 「ほんとの ほんとに…」

 「…」

 「…」

 「ねぇ、ちきゅうぎを おもいうかべて」

 「ちきゅうぎを?」

 「うん。 スイカくらいの ちきゅうぎを」

 「わかった」

 「その ちきゅうぎの きみが いるところと
  ぼくが いるところを いとで つないで」

 「…つないだよ」

 「どれくらいの ながさ?」

 「…30センチくらい」

 「うん。 じゃあ こんどは、ちいさいのを」

 「どれくらい?」

 「グレープフルーツくらい」

 「わかった」

 「その ちきゅうぎの きみが いるところと
  ぼくが いるところを いとで つないで」

 「…つないだよ」

 「どれくらいの ながさ?」

 「…10センチくらい」

 「うん。 じゃあ こんどは、もっと ちいさいのを」

 「もっと? どれくらい?」

 「ブドウの つぶくらい」

 「わかった」

 「その ちきゅうぎの きみが いるところと
  ぼくが いるところを いとで つないで」

 「…つないだよ」

 「どれくらいの ながさ?」

 「…2センチくらい」

 「うん。 じゃあ こんどは、もっともっと ちいさいのを」

 「もっともっと? どれくらい?」

 「おコメの つぶくらい」

 「えーっ」

 「その ちきゅうぎの きみが いるところと
  ぼくが いるところを いとで つないで」

 「…うん」

 「どれくらいの ながさ?」

 「…わ、わかんないよ」

 「はは、そうだね」

 「…そうだよ」

 なんだか くろねこは わらっている ようです。
 なんだか しろねこも わらいたく なってきました。

 「どうでも いいよね。 また でんわする」

 「こんどは ぼくが するよ」

 「またね」「またね」

 「げんきで」

 にひきは でんわを おきました。