1044 ねぇどう

「ねぇ、どうしてせんそうはおこるの?」


子ねずみが母さんねずみに訊ねました。


「そうねぇ、多分、色々と理由はあるけれど…」


母さんねずみは続けました。


「みんな、大事なものを守りたいからじゃないかしら」


「だいじなもの?」


「そうよ。例えば…神様とかね」


「かみさまがせんそうをおこすの?」


「ふふ、違うわよ。神様を信じている人達よ」


「でも、かみさまをまもりたくて、せんそうするんでしょ?」


「そうだけど…」


「かみさまがいなければ、せんそうはないんでしょ?」


「そんなこと…でも、確かに減るかもしれないわね」


「ぼく、かみさまをやっつけるよ」


「え?」


「かみさまは、どこにいるの?」


「神様はどこにでもいるわ。ぼうやの好きなチーズの中にも」


「チーズの中に?」


子ねずみは目を丸くしました。そして、


「かみさま、やっつけてやる!」


と言いながら、チーズをモグモグ食べました。


「おかあさん、かみさま、やっつけたよ!」


喜ぶ子ねずみに、母さんねずみは言いました。


「ぼうや、神様はこのお皿の中にもいるわ」


「よーし、まかせて!」


子ねずみはお皿をかじり始めました。


カジカジカジカジ…ガリッ。


「いてっ!」


痛がる子ねずみに母さんねずみは言いました。


「あらあら、気を付けて」


「うーん…なかなかてごわいなぁ…」


「ああ、あとね」


母さんねずみは続けました。


「ぼうやの中にも神様はいるわ。母さんの中にもよ」


「え?ぼくや、おかあさんのなかに?」


「ええ、そうよ」


「……」


子ねずみは、長い間黙っていました。そして口を開きました。


「……ぼく、かみさまやっつけられないよ。
 おかあさんのなかのかみさま、やっつけられない」


とても小さい声でした。
母さんねずみはそれを聞いて微笑みました。


「あのね、ぼうや」


子ねずみは母さんねずみを見上げました。


「神様はやっつけなくていいの。こうしてあげればいいのよ」


そういうと、母さんねずみは、子ねずみを抱き締めました。


母さんねずみから、優しいにおいと温かさが伝わってきて、
子ねずみはこう思いました。



どんなに大きな象の神様も、
どんなに小さなありんこの神様も、
それから、いつも追っかけてくる怖い猫の神様も、
全部全部抱き締めちゃおう、って。