1034 子狐が言

子狐が言いました。


「おとうさん、あそびにいこう」


お父さん狐は新聞に目を向けながら答えました。


「お父さんは今、新聞を読んでいるんだよ。
 大きな事件が起きたんだ」


「おおきなじけん?」


「ああ、そうだよ」


「おとうさんはいま、あそびたくないの?」


「すまないね」


「……」


子狐は黙って、
お父さん狐の身体を揺り動かし始めました。


「おいおい、揺れると文字が読めないよ」


子狐は止めません。


「おいおい、駄々をこねないでくれ」


子狐は口を開きました。


「だだをこねているんじゃないんだよ。
 おとうさんのからだをうごかして、
 そのなかのおとうさんのきもちも
 うごかしているんだよ。


 あそびたくなってくれるようにさ」


新聞を見ていたお父さん狐は顔を上げて、
自分の身体を揺り動かし続ける子狐を見て言いました。


「お父さんの心は、身体の中にはないんだよ」


「そうなの??」


「そうだよ。
 だから、身体が揺り動かされるだけじゃ、
 心は揺さ振られないんだ」


「こころはからだのなかにはないの?」


「ああ、そうだよ」


子狐は手を止めて言いました。


「じゃあ、どうしたらあそびたくなる?」


子狐の困った顔を見て、お父さん狐は笑いました。


「ぼうや、遊びに行こうか。
 お父さんは遊びに行きたくなっちゃったよ」


そうして、お父さん狐は大事件の新聞を折りたたんで、
子狐と遊びに出掛けました。