690 翼がある

翼があるのに
飛ばずに頂上まで辿り着くような、
そんな強い意思は持てなかった。


翼があると
翼に頼ってばかりいる自分がいた。


だから、僕は
翼をもぎ取ることにした。
翼がなくなればもう
翼に頼ることはできない。


翼があった時には
容易に舞い降りた頂上に、
今は大変な苦労をしてようやく辿り着く。


見える景色は
飛んで来た頃と同じ景色。


これほどの苦労なくして
ここまで辿り着けた翼。
それほどの力を持つ翼を
自ら投げ捨てた自分を笑い、
翼を持っていた過去の自分を誇りに思った。


そして、
その翼と同じ所に辿り着くことのできる
この足は素晴らしい。
今、この足こそを誇りに思おう。